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平野啓一郎『ある男』感想【あらすじ・ネタバレ有】

平野啓一郎『ある男』2018年9月28日発売!

待ちに待った平野啓一郎さんの新刊が『ある男』が発売されました。

先日ちらっと書きましたが平野啓一郎さんデビュー20周年だそうです。

若い時に芥川賞を受賞されていたので、そんなに経っていたのかと驚きです。

 

先日も書きましたが、文學界10月号で特集がありました。

小川洋子さんとの対談もあり豪華です…。

今回の文學界はほんとよい。

坂上秋成さんの『私のたしかな娘』も良かったです。

 

www.mitsukaruko.net

 

さて、早速私も『ある男』を買おうと思い、前日に本屋に電話しました。

 

私「平野啓一郎さんという方の『ある男』という本は、明日入荷ですか?」

店員さん「はい、明日ですね。お取り置きしましょうか?」

私「あ、大丈夫です。早めに買いに行きます」

 

というやりとりをしました。

そして発売当日昼頃にその本屋に行くと既に売り切れ!

ショックを受けながらも車を10分走らせ別の本屋で無事購入できました。

 

そしてすぐに近くの喫茶店で2時間くらいで読みました。

 

 

はい、皆さんすぐ読んだ方が良いですよ。

おすすめ度無限。

 

 

  

◆『ある男』あらすじ・ネタバレ注意

それではさくっとあらすじをまとめたいと思います。

だいぶネタバレも含まれているのでご注意ください。

ーーーーー

 

谷口里枝は2011年9月に、夫である大祐に先立たれる。

林業をしていた大祐は、仕事中に自分の伐採した木の下敷きとなって亡くなった。

39歳だった。

 

ーーーーー

 

里恵は大祐の前に別の男と25歳の時に結婚をしている。

その男との間に2人の子どもー長男は悠人、次男の遼がいた。

しかし、次男の遼は2歳の時に脳腫瘍と診断され、亡くなった。

里枝は遼の治療を巡り夫と対立したことがきっかけとなり

遼の死後に夫に離婚を申し出た。

離婚調停は長引きながらも、弁護士・城戸の力もあり里恵が親権を得た。

 

その後まもなく里恵の父親が急逝し、

里恵は長男の悠人を連れて宮崎の実家へ帰った。

 

里恵は母の代わり、実家の文具屋を切り盛りすることになった。

そこに客として訪れた谷口大祐と出会うことになる。

大祐はいつもスケッチブックと絵具を買っていき、趣味で絵を描いていた。

2人は徐々に関係が近づいていくことになり、里恵は大祐と再婚した。

里恵と大祐の間には女の子も生まれ、家族4人幸せに暮らしていた。

 

 

しかし、大祐は突然亡くなってしまった。

大祐は生前、里恵に実家と関わらないでほしいと伝えていた。

里恵は大祐の言葉を1周忌までは守っていたが

1周忌を終え、大祐の実家へ手紙を書いた。

 

大祐の兄である谷口恭一は、大祐の訃報を知ると宮崎までやってきた。

しかし、里枝の家で大祐の写真を見た恭一は

写真に写っている大祐は、自分の弟ではない、まるで別人だと言ったー

 

誰かが、「谷口大祐」になりすましていた。

 

ーーーーーーー

 

里恵はかつて離婚の際に世話になった弁護士・城戸章良に相談する。

 

・「谷口大祐」はただの偽名ではなく戸籍上存在している。

・「谷口大祐」を名乗っていた男ー「X」(と城戸は呼ぶことになる)は

免許証も保険証もあった。

・「X」が語った過去は、大祐本人の過去と一致しているらしい。

 

一体何故こんなことが起きているのか?

城戸は里恵の依頼を受け調査を始める。

 

谷口大祐は家族と縁を切りたいと考えていたようだ。

過去を捨て、別の人間として生きたいと望んだのかもしれない。

そして「X」も過去を切り離して、別の人間として生きようとしていたのか?

 

城戸は調査を進める中で戸籍交換を仲介するブローカーの存在を知った。

そして服役中のブローカー・小見浦に会う。

小見浦は明言はしないが大祐の戸籍交換に関わっていたことを匂わせる。

小見浦は言った

交換じゃなくて、身元のロンダリングですよ。汚いお金と同じで、過去を洗浄したい人はいっぱいいるでしょ?    (p.160)

 

城戸は小見浦からは「曽根崎義彦」という新たな人物のヒントを得た。

「X」が曽根崎義彦なのか?

 

しかし、曽根崎義彦は「X」ではなかった。

今曽根崎義彦として生きているのは谷口大祐だった。

 

ーーーーー

城戸は調査を続けてはいるが真相は見えてこない。

 

そんな時、偶然ある絵を目にした。

里恵に見せてもらった「X」の描いた絵に酷似していた。

その絵は死刑囚・小林謙吉の描いた絵だった。

小林謙吉の顔写真は「X」に似ていた。

 

 小林謙吉は殺人事件を起こしすでに死刑が執行されこの世にはいない。

 

小林謙吉には誠という一人の息子がいた。

小林と母の離婚後は「原誠」として暮らしていた。

誠は一時児童養護施設にいたが、その後行方をくらましていた。

 

原誠こそが「X」だった。

 

誠は殺人犯の子どもとして過酷な人生を歩んでいた。

自分に父親と同じ血が流れていることにずっと苦しみ、自殺未遂もしていた。

 

誠はそんな自分の過去を捨てるために

 

1度目に曽根崎義彦と

2度目に谷口大祐と戸籍を交換していた。

 

そして誠は谷口大祐として、里枝に出会ったのだった。

 

ーーーーーーー

 そして里恵は、自分がもし、最初からその事実を知っていたなら、果たして彼を愛していただろうかと、やはり自問せざるを得なかった。

 一体、愛に過去は必要なのだろうか ?  (p.347)

 

 

 

ある男

ある男

 
 

 

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◆感想など思いついたままに書いてます

・あらすじを書いてみましたが分かりにくくてすみません。

要は、数人の男が戸籍交換を繰り返していて、過去を完全に捨てて、別の人間として新しい人生を選んでいた―という話です。

 

・ざっくりしたあらすじしか書いていませんが、城戸は在日3世で彼は彼で変えようのない出自があります。城戸自身は大きな差別や暴力に出会っては来なかったけれど、無意識であろう差別的な眼差しを感じながらも生きています。

城戸のことをあまり書いていませんが、主人公的な存在は城戸です。

彼は彼で妻と上手くいっていなかったり、幸せな方の人生を歩んでいるはずが、別の人間として生きることを羨ましくも感じたりしています。

 

 

・「過去」が大きなテーマになっていて

私たちはそれを抱えて、とんでもなく重たく感じたりもしています。

そんな「過去」をどう扱っていき、何を大切にして、何を愛するのか?

 

城戸は愛する人に語られた過去が嘘だった時に

それまで築いた愛はどうなってしまうのかーと考えます。

大祐の元恋人の美涼は言いました、

「わかったってところから、また愛し直すんじゃないですか?一回、愛したら終わりじゃなくて、長い時間の間に、何度も愛し直すでしょう?色んなことが起きるから。」(p.300) 

 

・どうしてこんなに優しい

・悠人くんに涙する

 

私はやっぱりこの人の本が好きです…
 
初めて『日蝕』を読んだときはこれが現代の作家の書くものなのか、と
その美文に萎縮しながらも、強く憧れもしました。
 
それ以降も作品は読んできて平野さんの「分人主義」には
とても赦された気がして、大げさかもしれませんが生きるのが楽になりました。
 
私は20歳頃までは自分が臆病で駄目な人間だと考えることが多かったです。
正直に自分の気持ちを伝えるのは苦手だし
人と深く関わることにずっとバリアを張っているような状態で。
「1人の真直ぐな確かな存在として強く生きる」
みたいなことが私には難しくて
でも隠したり偽ることへの罪悪感はものすごく強くあった。
 
それが平野さんの作品に触れて
少しずつ自分を肯定できるようになった気がしています。

 

 

ある男

ある男