◆『文學界10月号』は平野啓一郎さんのデビュー20周年特集あり
平野啓一郎さんは私の好きな作家の一人です。
作品で言えば
『ドーン』
『マチネの終わりに』
をおすすめしています。
平野さんの作品につきましては、またいつか記事を書くと思います。
平野さんの特集記事なわけですが
9月末に発売予定の単行本『ある男』について言及されている様子。
なので、『ある男』を読んでから読もうと思います。
◆坂上秋成って名前カッコイイですよね
イケメン&名前がカッコイイ、ということもあり印象に残っていました。
その後もご活躍をされているようで、お名前は見かけていましたが
読みたいなと思いつつも、小説は読んだことなかったんですよね。
そして今回ちょうど読みたかった平野啓一郎特集と同じ号にて
新作「私のたしかな娘」を発表されていました!
なんたるお得感。
これは即買いですね。
さて、では本題に入りまして坂上秋成さんの「私のたしかな娘」について書いていきたいと思います。
◆あらすじ(ネタバレになりそうなのでご注意ください)
主人公の神谷は34歳の独身男性でカフェレストランで働いている。オーナーの十郎、その妻・晴美、2人の娘で12歳の由美子が主な登場人物。
神谷と由美子の出会いは6年前だった。晴美が由美子を店に連れてくるようになり、十郎と親しくしていた神谷は、レストランの営業後に幼い由美子の遊び相手をしていた。神谷も初めは子どもが苦手で扱いに困ってはいたが、いつのまにか由美子に対しての苦手意識はなくなっていき、自然と面倒をみるようになっていった。
そんな中、十郎が腰を痛めたことで晴美は病院に付き添い、神谷は一晩を由美子と過ごすことになった。十郎を心配する由美子を抱きしめて寝かしつけた神谷は、思った。
自分の膝がしらから首までのあいだにすっぽりおさまるほど小さな体躯を抱えながら、ようやく私はこの少女が自分の娘であることに気がついた。彼女の体液が服に染みわたりそこから皮膚を通して奥の細胞に浸透し、ゆっくりと距離が縮まっていく。名前はすぐに思いついた。舌で口腔の上部を撫で回し、美しい響きを持った音を探しているうちに、エレナという三文字が降ってきた。(p.129)
十郎と晴美の娘である由美子を、「自分の娘」であると思うようになった。由美子にエレナという名前をつけ、誰にも言ってはいけない2人だけの秘密の名前だと伝えた。幼い由美子は疑問ももたずに、秘密の名前を共有した。
それから6年間、神谷は由美子をエレナとして、自分の娘として見てきた。彼女を大切に思い見守ってきた。
だが、ある日十郎から由美子と距離をおいてほしい、と頼まれる。もうすぐ中学生になる由美子が、一人暮らしの独身の男性の家に出入りするのは体裁が悪いから、と…
◆感想(ネタバレありますのでご注意ください)
主人公・神谷の視点で物語が始まっていくので、エレナ、由美子、十郎、晴美の関係が謎めいていて惹き込まれます。(あらすじで関係性書いてしまいましたが)
神谷がエレナは自分の娘だと思うようになってから、サイコな気配を感じてぞわぞわしてきます。ただ神谷の行動としては、過保護気味ではありますが、異常なことをしてもいなければ、エレナを大切に思って、扱ってはいます。エレナに合格祝いのプレゼントを贈ろうとする下りはむしろ微笑ましく好感をもてます。
まぁでもこの感じの話だと、神谷が美しく成長したエレナにやましい感情を抱いて…という展開を予想してしまいます。
予想は裏切られます。
神谷は十郎に特別な思いを寄せていたようです。誰にもバレないように、しまっていたはずの感情を晴美に気が付かれてしまったんですね。そこからは神谷が急に無防備で守られるべき存在のように思えてしまいました。そう、切ない。
その後神谷はエレナを十郎たちに黙って旅行に連れて行ってしまうという、正しくない行動を とってしまうのですが、もう神谷をイカレた男とは思えないほどに感情移入してしまいました。
今、思い返してみると初めの方で神谷が十郎のことを「まばゆい」と語っている部分がありました。「まばゆい」なんて褒め言葉がなかなか出てこなくて、読んだとき素敵だなと思ったんです。表現には意味があるものですね。
という感じで一気に読んで一気に感想を書いてしまいました。
坂上秋成さんの他の作品も読まなければ…と思う面白い作品でした。