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柚木麻子『マジカルグランマ』あらすじ・感想(ネタバレ含む)

柚木麻子さんの新刊『マジカルグランマ』を読んだので。

  

◆柚木麻子さんの作品は何を読んでも面白い

柚木麻子さんは1981年生まれの小説家。

大好きな作家のひとり。

 

過去に『ランチのアッコちゃん』

『伊藤くんA to E』がドラマ化されているので

ご存知の方も多いのではないだろうか。

 

女同士の関係(友情、憧れ、嫉妬)の描き方が秀逸。

女が隠しておきたい見られたくないような感情を

容赦なくさらけださせていくのが痛快。

(これまで人をものすごく観察されてきたんだろうなと思う。)

そしてなんやかんやあっても

ラストは気持ちが照らされる作品が多いのも好きなところ。

 

ちなみに私のおすすめ作品はこちら。

『けむたい後輩』

承認欲求と自意識とプライドの塊の痛い女と、なぜか彼女に憧れている後輩の話。

けむたい後輩 (幻冬舎文庫)

けむたい後輩 (幻冬舎文庫)

 

 

『BUTTER』 

きっとバター醤油ご飯を食べたくなる。

BUTTER

BUTTER

 

 

 

◆『マジカルグランマ』のあらすじ

 

マジカルグランマ

マジカルグランマ

 

 

元女優の正子は現在74歳、主婦だ。

女優といっても代表作はなく、脇役のまま女優としての活動を終えていた。

正子は映画監督の男性と結婚し、結婚を機に50年近く前に引退した。

現在、夫は同じ敷地に住んではいるものの、4年間口をきいていない。

ゴシック様式の広い洋館に正子が、離れには夫が暮らしていた。

夫婦関係は崩壊しているものの、夫は離婚に応じずにいた。

 

正子は自活できる収入を手に入れ屋敷を出て行き、

別居から離婚へ持ち込むのを目標としている。

そこで74歳で再就職活動を始める。

正子はシニア俳優の派遣事務所に登録をするが、

なかなかオーデイションに受からずにいた。

 

そんな時に正子は、古い付き合いのある先輩女優から

外見を少し変えるようにアドバイスを受ける。

戸惑いつつも先輩女優の言うとおりにしたところ、

正子は70代半ばにして大ブレイクをすることになる。

 

正子は

「可愛いおばあちゃん」

「理想のおばあちゃん」

として世間から大いに慕われ人気を集めた。

 

・・・

 

しかし、そんな状況も夫の死によって一変する。

同じ敷地内で、いつのまにか夫は亡くなっていた。

報道陣が押し寄せ正子はコメントを求められるも、

そのときの正子の振る舞いは世間の求めていた

「可愛いおばあちゃん」

ではなかったのだ。

 

夫の死を正子は悲しまなかった。

夫婦関係は冷え切っていたことも世間に知れ渡り、

それまでイメージが崩れ去り、彼女は人気者から一気に転落した。

 

事務所を解雇され、仕事を失った正子に更に悲報が舞い込む。

夫には多額の借金があったことが発覚。

屋敷を売りお金にするつもりでいたものの、解体費用も1000万かかるという。

 

更に夫のファンだったという映画監督志望の若い女の子・杏奈が

家に転がり込んできていて、渋々共同生活を始めることになる。

正子にはお金が必要だ。

杏奈から食事代・宿代を取り

メルカリで屋敷にあるものを次々と売り始めるー 

 

◆75歳のおばあちゃんが主人公ー2019年で75歳を迎える著名人を調べてみた

この『マジカルグランマ』74歳の正子は微妙に75歳とサバを読み

一時はオーディションで成功を掴むことになる。

(その成功も、夫の死によってイメージダウンし転落するけれど)

 

私が初めに読んだときに

75歳という年齢をいまいちイメージできなかった。

年齢を聞けば十分高齢な印象はあるけれど、実際はどうなのだろう。

参考までに2019年に75歳を迎える芸能人・著名人を調べてみた。

 

みのもんた(1944年8月22日)タレント

草野仁(1944年2月24日)アナウンサー

高橋英樹(1944年2月10日)俳優

杉良太郎(1944年8月14日)俳優

黒沢年雄(1944年2月4日)俳優

ジェフ・ベック(1944年6月24日)ギタリスト

田中眞紀子(1944年1月14日)政治家

(女性であまり知っている人がいなかったので政治家だけど田中眞紀子さん。)

 

こうしてみると75歳とはなかなかパワフル。

芸能人だから実際の75歳とはまた違う部分もあるだろうけれど

正子も女優なわけだから、こんな年代なのねと思っていいだろう。

 

 

◆マジカルグランマというタイトルーマジカルニグロから

マジカルグランマ、というタイトルはかわいい響きだ。

しかし、このマジカルグランマ、実はマジカル・ニグロからきている。

マジカル・ニグロ(Magical Negro)は特にアメリカ映画において白人主人公を助けに現れるストックキャラクター的な黒人のことである[1]。しばしばすぐれた洞察力や不思議な力を持った存在として描かれるマジカル・ニグロはアメリカにおいて長い伝統を持つキャラクター類型である。

マジカル・ニグロ - Wikipediaより引用)

ステレオタイプとして描かれる白人を助ける黒人。

都合の良い、便利な、魔法使いのような。

 

 

正子がオーディションで好きな映画は『風とともに去りぬ』と答えた時、

面接官の一人が、マジカルニグロという言葉を口にした。

このとき、正子は初めてマジカル・ニグロという言葉を知る。

そして自分はかつてマジカルグランマを演じていたのかと気が付く。

つまりそれは

可愛くて、優しくて、愛される、穏やかな

都合の良いステレオタイプのおばあちゃんだった。

 

正子はこのことに気が付いた時に

家族とうまく関係を築けていない人

孫にお小遣いをあげたり、

身なりを整えるような金銭的な余裕のない人

そんな現実のお年寄りを傷つけていたのかもしれない、と考えることになる。

 

◆『マジカルグランマ』感想・ネタバレ含

ついこのあいだまで放送されていた朝ドラ『まんぷく』では

ヒロイン福子のお母さんである今井鈴(松坂慶子)が

それまでの朝ドラヒロインのお母さん像とまるで違い話題・人気となっていた。

思ったことをぽんぽん口に出し、わがままだったり、自分本位だったり、

しかし憎めない、お茶目なお母さんだったことを思い出した。

 

さて、従来の物語におけるおばあちゃんを思い浮かべると

どんな人物を思い浮かべるだろう。

 

75歳の女性が主人公になる物語というのは決して多くはない。

まず60歳を過ぎた主人公はなかなかお見掛けしない。

さらにそれが女性ともなるとまるで思い出せない。

 

高齢になった女性は脇役にまわり

誰かを支え優しく見守る役割を

私たちは無意識のうちに押し付けていたのかもしれない。

 

そんな枠から飛び出していくのが主人公・正子である。

夫の死や人気者からの転落、人との出会いをきっかけに

彼女は自分の人生を自分の思うように生き始める。

 

メルカリを覚え、思い出よりもお金だと言いのける様は潔く気持ちが良い。

 

過去より未来の方が圧倒的に大事で、それはその人に未来がどのくらい残されているかには、関係しない。(p.100)

 

お年寄りは常に昔に思いを馳せて、未来より過去を大切にしているもの。

そんな風に私はどこか思い込んでいたので、はっと目を覚ました気分だ。

 

正子は75歳にして、未来を想像し、新しいことにチャレンジしていく。

時には図々しく、わがままで、計算高くて、でも悔しくも魅力的だ。

何が起きるか分からない人生を面白がって生きている。

 

・・・

 

ストーリーもくるくると展開していき

予想もつかない事態の連続で夢中で読んでしまった。

予想は裏切られるばかりで、新しくて弾けた物語。

 

逞しくキュートなこのおばあちゃんから目が離せない。

 

 

マジカルグランマ

マジカルグランマ