◆町屋良平さんは赤い服(ジャージ?)が印象的だった芥川賞
第160回の芥川賞を受賞された町屋良平さん。
1983年生まれ、東京出身の小説家です。
私にとって
受賞発表の時に着ていた赤い服の印象が強くて。
なんかアウトローな、いかつい人なのだろうか…ボクシングだし…
と勝手にイメージしていました。
(超ステレオタイプで申し訳ない)
ただ、TV出演をされているのを拝見したとき、
お話の仕方や表現がきれいでやわらかくて。
一体どんな人なのだろう、
どんなものを書いてきた人なのだろう、
と気になり作品も読んでみなければと思っていたところでした。
そんな折に今月号の文學界で新作「しずけさ」が発表されていました。
こんなことはほとんどないのだけれど
あらゆる世代のあらゆる人に薦めたいと思えるものだったので
簡単にあらすじと感想を書いていきたいと思います。
◆町屋良平「しずけさ」あらすじ
棟方くんは仕事を辞めた。
原因は不眠とゆううつ。
鬱と判断されるかは微妙なところ、だった。
今は実家で、ゲームをしたり散歩をしたりしながら時間を過ごしている。
夜に起きて朝昼に眠る生活だ。
そんな棟方くんが小学生の男の子、いつきくんと出会う。
2人が出会ったのは真夜中の公園だった。
・・・
いつきくんは小学生なのに真夜中に一人で外を出歩いているー
いつきくんの両親はいつきくんにごはんもおやつも与えるし
いつきくんを殴ることも、罵ることもない。
ただ、
午前2時から午前6時までは家にいてはいけない、
と言いつけられている。
だからいつきくんは午後8時に寝て、午前2時に起きる。
そして朝まで一人、外で時間を過ごす生活をしている。
なぜその時間家にいてはいけないのか、
両親ははっきり言わないけれど
いつきくんはなんとなく気づいている。
朝家に帰ると、
誰かが来ていた形跡があること
へんなにおいが漂っていること
そして押し入れには植物が隠されて栽培されていることー
・・・
ふらふらと不安定で壊れかけた大人と、
傷ついていることを隠して強がるように振る舞う子ども。
真夜中に少しずつ、2人は言葉を交わしていくー
◆「しずけさ」感想・ネタバレ一部含む
この余韻にまどろんでいたい。
のーんと延びて消えてゆく、影。(p.114)
序盤のこの表現で、私はこの作品がとても好きになると思った。
さて、私は町屋さんの作品は初めて読んだわけですが
その文体、表現の儚さ、幼さ、頼りなさ、清さ、まぼろし感に
すぐさま魅了されたのでした。
いつきくんは棟方君に対して、小学生男児らしい生意気な口をききます。
しかし口と態度は強がれど、
いつきくんは傷ついているし怯えているしふつうの日々に憧れています。
そんな彼が棟方くんという大人に出会うけれど、
棟方君はいつきくんの中にある感情に気が付いて理解して
手を差し伸べるほどの強さも頼りがいも、まだありませんでした。
いつきくんから見た棟方君は年齢的には大人だけれど
棟方君は現実というものからどこか浮いたところにいて
社会を歩いている大人とは違います。
そんな棟方君の造形も
大人でいることを破綻してしまった後ろめたさや情けなさ
一方で解放感や彼の世界にある甘やかさも伝わります。
棟方君を見ているとこちらが傷ついてしまいそうになるくらいに。
そんな2人が徐々になんとなく近づいて
ほんのわずか
この先にもどこかに拠り所があるのかもしれない、くらいの希望が
見えてくる。
ラストは2人の状態が万事解決とはいかないけれど、
しずかにたしかな予感がある。
かれらの幸福を願いながら本を閉じる。
なんか本当にどうしようもないほどに良かった小説。
・・・
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