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村田沙耶香「信仰」あらすじ・感想(一部ネタバレ)【カルト/詐欺/現実】

 2019年の読書1作品目は1月7日発売『文學界2月号』の

村田沙耶香さんの新作「信仰」です。 

文學界 2019年2月号

文學界 2019年2月号

 

 

1月7日発売でしたが私の住む田舎では1日遅れての入荷でした。

こういうのが地方民は切ない。

1日そわそわして過ごしました。

 

村田沙耶香「信仰」のあらすじー「カルト始めない?」

「なあ、永岡、俺と、新しくカルト始めない?」(p.10)

冒頭はこう始まる。

 

永岡ミキは久しぶりに会った同級生・石毛にこんな誘いを受けた。

一緒にカルトを立ち上げて儲けよう、と持ち掛けられる。

立ち上げのメンバーにはもう一人の同級生、斉川さんが決まっていた。

 

斉川さんは大人しく真面目な子で

石毛のように人を騙して儲けようとするタイプには思えなかった。

 

なぜ彼女がこんな計画に加わっているのか?

話を聞くと、斉川さんは過去にマルチにはまって

浄水器を売っていたことがあるそうだ。

借金を作り、家族にも迷惑をかけ、友人も離れていったという。

 

ミキは石毛の誘いを断るつもりでいるが、

騙された苦い過去を持つ斉川さんが

この計画に参加する真意が気にかかり、2回目の集まりにも足を運ぶー

 

 

◆「信仰」ネタバレ含む感想(ぐちゃぐちゃ)

タイトルの「信仰」で心を掴まれます…。

ネタバレ込みで感想を書いていきますのでご注意ください。

 

中盤部分のざっくりしたあらすじはこんな感じ。

 

ミキは初め、一般的な価値観を持っているように思われた。

一般的、という言葉が相応しいのかは怪しいが

石毛の「人を騙して儲けよう」という誘いに難色を示したり

斉川さんのこと心配している様子は

良識のある、まともな反応をしているように思われた。

 

けれど、ミキはミキで

「現実」に固執していて

「現実」をあらゆる人に突きつけることを

善と信じ込んでいたことが明らかになる。

 

人を騙しているわけではないし

むしろ事実や現実を伝えているのだけれど

それは他人が大切にしている夢や希望を正論をふりかざし否定することで

ミキに「現実」を押し付けられた友人や妹は、ミキの元を離れていった。

 

ミキは現実しか信じられない自分を洗脳してほしいと斉川さんに縋る…。

 

ーーー

どこかタブーみたいに扱われる領域を描いた作品で

さすが村田先生…と思わずにはいられません。

 

マルチで商品を良いものと本気で信じて人に広めようとすること

原価は低いけれど高額なブランド物を褒めそやすこと

夢のために高いお金を払ってセミナーに通うこと

 

何がどう違うのって言われたら

どれも信じるものを信じているだけ。

信じているから行動するしお金を払う。

「みんな」がそれを信じるかどうかで、正しい、怪しいが決められていく。

 

その「みんな」に弾かれてしまったものだとしても

信じるものを叫べる人は強いと思うけれど

そんな人を

私は見てはいけないものを見てしまったような気持ちもしていた、

そんな自分が狡く恥ずかしい。

・・

『地球星人』でも「洗脳」という言葉はでてきていて、

 

自分がどうしてか世の中の人と違うみたいで

うまく馴染むことができなくて

それは多分よくないことで

不幸で間違いで嫌われることで

自分の存在を直さなきゃいけない、

 

みたいなことがこの作品でも書かれていて、

普通になりたい、と思う心を

どう受け止めていいのか未だにわからないまま。

 

かわいそう、悲しい、寂しい、怖い、

でもきっとそれだけではなくて

村田沙耶香さんの描く

どこか彷徨いながら壊れたような狂ったような人たちに

 

きっとどこか安心していて

私はまだ保って居られて、大丈夫って思っている部分を

ようやく認めようと思います。

 

 

◆マルチやインターネットビジネスについて書いた記事

www.mitsukaruko.net

村田沙耶香さんの他の作品の感想、過去記事はこちら。

www.mitsukaruko.net

 

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文學界 2019年2月号

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地球星人

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