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古市憲寿『平成くん、さようなら』感想【あらすじ・ネタバレ有】

 古市憲寿さんの『平成くん、さようなら』を読んで。

今回はあらすじと感想を書きたいと思います。
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で区切っているので

最後まで知りたくない方は途中でやめて

本を買って読んでね。

 そもそも、この本の良さは内容だけでは伝えられなくて

細かいところに「今」の時代が書き込まれていて

それを読んでこその面白さが大きいです。

 

ちなみにこんな記事を昨日は書きました。

 

www.mitsukaruko.net

 

◆『平成くん、さようなら』あらすじ(ネタバレ有)

 彼は突然、安楽死を考えている、と恋人に伝えた。

 

彼は1989年に生まれた。

今年で29歳だ。

文化人という立場で現在活躍している。

彼が、若くして現在のような立場にいるのは実績は勿論だが

運とその名前によるものがある。

彼の名前は「平成」と書いて「ひとなり」という。

まさに平成という時代を象徴するような若者だった。 

 

平成君の恋人である愛ちゃんが、この物語の語り手。

亡くなった父親が有名な漫画家で、母親は著作権利会社の社長。

母の仕事の手伝いながら

一応アニメプロデューサーという肩書で活動している。

 

2人はもう2年近く同棲しているが、2人の間にセックスはない。

平成君が、それを好まないからだった。

お互いに好意は抱いているし、大切に思っている。

 

これは

安楽死が合法化された平成の終わりを迎える日本での

少し変わった2人の物語。

 

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 平成くんは平成という時代が終わりを迎えるのと同じように

自分の人生にも幕を引こうと考えている。

 

平成が終わった瞬間から、僕は間違いなく古い人間になってしまう。(中略)だけどもはや、新しい人ではなくなる。時代を背負った人間は、必ず古くなっちゃうんだよ。(p.23-24)

 

愛ちゃんは好きな人がそんな風に死のうとしているに反対する。

平成という時代が終わるから

なんていう理由で彼が死を選択することを

受け入れられずにいるが、平成くんの意思は変わらない。

平成くんは着々と自分の死に向けて安楽死の情報を集め準備を進めている。

 

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そんな中、愛ちゃんが飼っている猫・ミライの容体が悪化する。

ミライは老齢ということもあり、体力の限界がきていた。

愛ちゃんはミライの様子を気にしながらも、仕事のために家を離れる。

 

そして帰宅するとミライの姿はない。

平成くんが、再び苦しみだしたミライを動物病院に連れていき

安楽死を依頼し、ミライは死んで、火葬された後だった。

 

愛ちゃんは怒るが、平成くんはミライは苦しんでいたからと説明する。

それでも愛ちゃんが怒っていた姿

悲しんでいた姿を見て

平成くんの心に少し変化があった。

 

死んだ人のことを誰もが忘れるのは悲しいから

死んだ人のことを忘れないでいること

思い出すことを大切なことだ

という愛ちゃんの気持ちを受け入れたようだった。

 

 

ーーーーーラストまでネタバレしますーーーーー

 

 

 

そして、平成くんは愛ちゃんに隠していたことを打ち明ける。

目の病気であること、視力が急激に落ちていて

何も見えなくなる日が近づいている、ということを。

 

それは平成くんが愛ちゃんとのセックスを拒む理由でもあった。

子供ができたときに遺伝するのを恐れていた。

 

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その告白の後、平成くんは愛ちゃんの元から姿を消すが

3か月後に帰ってきて、愛ちゃんに白い箱を渡す。

それは

「ねぇ平成くん」

と話しかけると

平成くんの声で、平成くんの言いそうなことを答える

スマートスピーカーだった。

 

平成くんはそのスマートスピーカーを愛ちゃんに渡して

また姿を消した。

そのとき彼は死ぬかどうか迷っている、と言った。

 

今、平成くんが生きているのか、死んでいるのか分からない。

それでも「ねぇ平成くん」と話しかけると

平成くんの声で、答えが返ってくる。

 

平成くん、さようなら

平成くん、さようなら

 

 

◆『平成くん、さようなら』の感想

前回の服の記事でも書いたけれど

本当に「今」なんです。

この本が、あーなんか平成とか懐かしいねってなる前に

平成くんのために読んであげてほしいと思うような話。

 

これがあまりにも「今」だから

10年もたてば、全部が古いものになっていて

20年もたてば、若い子はこのでてくる固有名を

いちいち調べないとまるで分からないかもしれない。

そういう時間の残酷さみたいなものを全部承知で

平成という時代に捧げるような話。

 

この小説で私たちの生きた時代をセーブしてもらったような感覚。

 

ーーー

 

ずっと飄々としていて掴みどころのないような平成くんが

終盤で見せる儚さや脆さに…。

 

そういえば愛ちゃんはよく

「ねぇ平成くん」

と話しかけていたっけ。

 

ラストはよかったなぁ。

  

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